2007-09-14 -TZALIK- in Thor


 ☆モンスターサイドストーリーズ 第四話 続き

起動

 同じ沈没船の一室とは思えない悪意に満ちた空間。
 依代(よりしろ)を見つけられないまま彷徨っている魂がまとわりついてくるのが判ります。

一緒に戦うのだ

 頷きました。
 これは彼女の戦い。そして私は彼女を信じた。

 ソードメイスを荷物袋にしまい、アバンダを支えるようにして立つ。

望み

 よもや同族が叛乱を起こすなど予想だにしなかったのでしょうか、マリオネットキラー=ヘイトリッドは嘲笑と怒りを浮かべ、

悪意の塊

 アバンダは毅然と言い返す。
 ……震える小さな手が、私の法衣を握っているのを感じながら、私もヘイトリッドをにらみ返す。

人よりも人らしい心を

 人よりも人らしい心を持ったマリオネットの言葉。
 しかしそれは、それまで絶対であったマリオネットの長を暴発させるには十分で――

暴発

 ――来る!



 咄嗟に半歩退がる。ほぼ同時に、アバンダが頭上にかざした燭台が火花を散らした。流れ着いたときに持っていたボロボロの燭台とは違う、銀の輝き。

激闘

 つばぜり合いの反動で押し返すと、横薙ぎに燭台を振るうアバンダ。
 仄暗い船室に真っ赤な火線が、一条、二条……

燃えろ!

 紙一重で避けた――そう読んだヘイトリッドの腕がぱあっと炎を上げる。肩口を押さえ、崩れゆく己の身をわなわなと見守る――三つ叉の燭台の中央、トライデントの矛先とも言える蝋燭が一本、彼女のドレスを貫いていたのだ。

 まばたき一つの瞬間ののち、ヘイトリッドの全身が炎に包まれた。人形として経る月日が長かったためか、火勢は収まることなく彼女を浸食していく。

 アバンダの乱れた呼吸が一回、二回……戦いは終わったかに見えた、三回目。
 炎の中に真鍮の鈍い輝きを見たTZALIKは、彼女を抱えたまま地を蹴る。

その威力たるや、百分率ではない、割の計算

 かろうじてコアを貫かれるのは避けた、が、アバンダの生命力の「パーセント」ではなく「割」単位で削られた。

 身を起こす。
 次の一撃に備え構えた――が、ヘイトリッドは燭台を突き出した姿勢で火の粉を散らし続けるばかり。

 と――

断末魔

 断末魔の叫びが朽ちかけの船室を、沈船そのものを激しく揺さぶる。見れば、ヘイトリッドの身体から赤黒いオーラ――取り込んだ『悪意』――が奔流となって霧散していた。
 吹き出す意識に足を取られ、転倒するTZALIK。生ぬるい水に濡れる感触に顔をしかめたが、肌をかすめていく風が次第に弱まり、消えていくのを感じ、張りつめていた気を緩め、息をつく。

終わり

 見れば、ヘイトリッドは文字通り『糸が切れ』たかのようにくずおれ、水の中に落下し火は消えていた。小さくくすぶる白煙だけが彼女の最後の生命を表すかのように……

 ――すべては終わった。
 ――戻ろう。

 アバンダを抱え直し、船倉から地上へ歩き出す。
 そのとき私の耳朶に触れた、小さな、声。

声 これは呪詛?

 アバンダにも聞こえただろうか? 彼女は何も言わない。
 ――パタン。
 船室の扉を閉めた。もう、先ほどまでの重苦しい空気はない。

 横を通り抜けるとき、バロックは少し驚いたような、しかしどこか納得ずくのような顔で、私たちを見送っていた。

 私もアバンダも終始無言。

 ヘイトリッド――HATREDは、まさしく「強い憎悪、憎しみ」。
 私の方を見ていたアバンダは気づかなかっただろうが、炎の中から燭台を刺し貫かんと突き出したヘイトリッドの表情が私の中に焼き付いている。

 「……ik。TZALIK!」

 物思いから気づいてみれば、船はイズルードへ着いていた。

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